s.otsuki’s diary

駆け出し研究者。少しずつでも発信します。

炎症性腸疾患について

炎症性腸疾患 inflammatory bowel disease: IBD

クローン病 Crohn diseas: CD

潰瘍性大腸炎 Ulcerative Colitis: UC

IBDは原因不明の炎症疾患であり、おもにCDとUCのことである。どちらも若年に生じる。

腹痛・下痢といった症状は共通しているが、病変の場所・深さの違い、ほぼ同じ意味だが内視鏡所見の違い、あとはクローン病に肛門病変があることは有名である。

治療は内科的治療は5アミノサリチル酸製剤、ステロイド、免疫抑制薬、抗TNFα抗体製剤などで共通している。寛解増悪を繰り返すし、若い頃から免疫抑制続けるのはなかなか大変なので、外科的治療も考慮される。

外科的治療は病変部位の違いが反映されて、UCは大腸を全部とって回腸でJパウチを作って肛門につなげる一方、CDは病変が強いところだけをとったり狭窄を解除したり、ケースバイケースである。

クローン病の方が、小腸にも病変が出るから取りきれないし、「全層性病変」っていかにもやばそう、ってイメージ。

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さて、本題の論文について

www.sciencedirect.com

scRNA-seqを用いて主にUCについて解析している。CDもやったが結果がイマイチだったぽい。ラボのディスカッションによると根本的にデプスが浅い、ようで結論が非常に複雑になっている。正直いい論文かはわからないが、分かる範囲で流れをざっくりと。

 

まず、シングルセルの場合はクラスタリングをする。サブセットの発現を見て、既存の知見と結びつけて各サブセットに名前をつけている。さらに既存の知見と照らし合わせて、「このサブセットのこの発言はこういう意味なのかな」などと解釈し、実際に組織をIFAとsmFISHで染色して見比べる。ここまでがクラスタリングの評価。

この論文の見所であるOncostatin Mについて以下の論文が引用されている。

www.ncbi.nlm.nih.gov

West NR, Hegazy AN, Owens BMJ, et al. Oncostatin M drives intestinal inflammation and predicts response to tumor necrosis factor-neutralizing therapy in patients with inflammatory bowel disease [published correction appears in Nat Med. 2017 Jun 6;23 (6):788]. Nat Med. 2017;23(5):579‐589. doi:10.1038/nm.4307

(話はそれるが、Pubmedで引用する際、”Cite"を押せば引用の型式が得られることに初めて気づいた。いつも「著者」「見出し」「雑誌名」「年度」でしょみたいな感じで「著者は何人書けばいいのか?」「ほんまにこれでええんか?」不安なことが多かったのでだいぶ気楽になる。)

 

さて、Oncostatin Mの話であるが、この引用論文によると

  • バルク標本のRNAseq
  • OSMとOSMRの発現がIBDで上昇
  • 病理学的重症度との関連もある
  • 実験動物でOSMをノックアウトあるいは薬剤による抑制をしたら炎症が改善。
  • 臨床コホート研究によると、治療前のOSMの発現が抗TNFα阻害薬への応答に関与する。
  • どの細胞で発現しているかは、骨髄細胞・間質細胞ではないか、というくらいで詳しくわかっていない。→今回の論文はシングルセルやから分かるかな?

という感じ。

実際、OSM:inflammatory monocyte and DC2s, OSMR:inflammation associated fibroblasts(IAFs)、で発現していた。

また別の論文を持ってきて、TNFα治療に対する抵抗性をスコア化する手法を導入している。これをサブセットごとに計算するとIAFs, inflammatory monocyte, DC2 cellsで大きかった。逆に、遺伝子プロファイルをまた別のバルク実験に当てはめると、治療抵抗性とコントロールで差が出たのはIAFのスコアであったため、治療抵抗群ではIAFが多いということになる。

OSMとTNFが関連を持ち、これにIAFが関わっているのではないか、と結論づけることができる。

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本当はもうちょっとあるが、整理しきれないのでここら辺にしておく。

自分なりの方向でまとめ直すと

  • 先行論文は全てバルク実験
  • バルク実験によると、TNFα治療に対する抵抗性との関連として、OSMや特定のスコアが浮き上がってきた。
  • それらを本実験のサブセットに当てはめるといずれも同じサブセットが浮き上がってきた。
  • 逆に、本実験のサブセットの遺伝子プロファイルを当てはめると治療抵抗群と対照群で差が出た。

バルクのデータから出てきたものをサブセットに応用する、サブセットのデータから出てきたものをバルクに応用する、という双方向性の解析をするようである。

ここでわからないのは、結局OSMを出してくるならば何故わざわざ別の論文の抵抗性のスコアをもちだしたのか?抵抗性スコアにおけるOSMの役割はそれほど大きくない。

なにかシンプルではなくはぐらかされている感じがする…

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時間をかけたがまだまだしっくりこない感じ。

図を1つ読むのにも2時間かかるし、解釈をするのはもっと大変で、結局わからないことも多い。今回の論文に関しては、解析が複雑であるし、出てくる遺伝子とかが細かくてイマイチ何の意味があるのかわかならい。

面白くない上に時間をかなり取られたが、次にscRNAseqの論文を読むときに少し楽になっていることを願う。